クッキーを買い求めるとき。クッキーを食べたいとき。クッキーを誰かに贈るとき。
そこにはさまざまな想いがこめられ、たくさんの物語があります。
美味しいクッキーの香りと味は、人それぞれの思い出とつながっています。
「このあいだクッキーを持って行ったらね…」
相手を思いやって作ったり、贈ったり。今回は、お客様が教えてくれた『クッキーの思い出』のおはなしです。
うちのおばあちゃんが病院にかかりました。わたしは小さな頃から“おばあちゃん子”で育って、いつもすぐそばに、おばあちゃんがいてくれました。大学に入って実家を出てからは頻繁に会うことはなくなったけれど、ずっと大好きなおばあちゃんには変わりがなくって。入院したと聞かされて驚いたけれど、ひさしぶりに会えるから少し嬉しくもあって、病院へ向かいました。
お見舞いの品には少し悩んだけれど、きっと病室は味気ないだろうから鉢植えの花を持っていきました。おばあちゃんのウチのベランダは、いつも花でいっぱいだったことを思い出して。
病院のベッドに横たわるおばあちゃんは、なんだかわたしの記憶のなかの姿よりも、ずっと小さく見えました。けれど、わたしを迎えてくれる笑顔は昔のまんまで、病人は自分の方なのに「元気でやってるの?」と逆に私の生活を気遣ってくれる様子も、わたしの大好きなおばあちゃんのまんまでした。鉢植えを渡して、それからいっしょに持って行った手作りのクッキーも美味しそうに食べてくれました。
窓辺に鉢植えを置いて「また来るね!」と病室を出て廊下を歩いていると、入院患者さんに声をかけられました。
「お嬢ちゃん。根が付いている鉢植えの花は、あんまり縁起が良くないものだよ。病院に寝付いてしまう、と言って」と。
それを聞かされたわたしは急いで病室に取って返して、おばあちゃんに謝りました。すると、おばあちゃんは、また昔のまんまの笑顔で「気にしないで!そのかわり、またきっと来てね。クッキーも焼いてきてね」と言ってくれました。あわてて持ち帰ろうとした鉢植えも「キレイだから、飾っておくよ」と。
それからは毎週のようにクッキーを持ってお見舞いに行きました。週末にはおばあちゃんのためにクッキーを焼き、かわいいラッピングの材料を選ぶことが楽しい習慣になりました。すぐに元気になって戻ってくると思っていたのに、おばあちゃんの入院は長引いたのです。
わたしがお見舞いに行くと、すぐにクッキーをおねだりしてくるおばあちゃんはまるで子どもみたいで、いつしか隣の病室の方や看護師さんも巻き込んでクッキーとおばあちゃんを囲む輪ができるようになりました。そんな時「この子が焼いてくれたのよ」と孫娘を自慢するおばあちゃんはなんだかちょっと誇らしげに見えました。わたしは少し恥ずかしくもうれしかったです。
独特の匂いと無機質な雰囲気の病室が、その時ばかりは甘い香りとたくさんの人の笑顔があふれる場所に変わりました。おばあちゃんの人柄が、そうやってたくさんの人を引き付けていたのだと思います。
大変な治療もあっただろうし、入院して気が滅入ることもあっただろうけれど、おばあちゃんがクッキーをほおばるときの横顔は、いつも幸せそうに見えました。その横顔を眺められるわたしも幸せでした。
わたしは、クッキーづくりを何年かぶりにまたはじめました。
つくっているときはクッキーを食べてもらいたい人のことを想ってつくります。だから、ゆっくりていねいにつくります。
そうして焼きあげたクッキーをその香りといっしょに口に運ぶ時、今でも、真っ先に思い浮かべるのは病室のおばあちゃんの横顔です。
誰かをお祝いしたり、苦労をねぎらったり、感謝を伝えたり、お悔やみの心づかいにも。
贈り物には相手を思いやる心がつまっています。
それはギフトっていうほど特別なときじゃなくっても、ポンと手渡されたクッキーの香りとおいしさが、その人を思い起こさせてくれる。
クッキーの思い出。続いての思い出は、そんなおはなしです。
0120-221-071
0798-72-1846
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